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有床診療所を核とした医療・介護の一体提供

有床診療所を核とした医療・介護の一体提供[医療法人城山会 池田内科医院 理事長・院長 池田俊先生]

高齢者に対して医療や介護が住み慣れた地域で一体的に提供される「地域包括ケア」のあり方が今、厚生労働省で検討されています。2012年には診療報酬と介護報酬の同時改定が行われますが、医療と介護の連携をさらに加速させる報酬体系の構築が進むものとみられています。こうした施策の流れを受けて、近年は介護事業に乗り出す診療所が増えているといわれるなか、2000年の介護保険導入時にいち早く介護事業に参画し、地域における医療・介護のシームレスなサービス提供を実践してきたのが、今回ご紹介する熊本市の池田内科医院です。診療所が手がける介護事業の先進事例として、院長の池田俊先生に実際の取り組みについてお聞きしました。

取材:2010年12月

医療法人城山会 池田内科医院 理事長・院長 池田俊先生
医業に加え、デイサービスやグループホーム、小規模多機能居宅介護など複数の介護事業も手がける池田院長。診療の合間を縫ってすべての介護施設に顔を出し、普段はほとんど医院に寝泊まりして急変時の対応にあたるなど、とにかく忙しい日々を送っていらっしゃいます。そんな池田院長の唯一の息抜きが、たまに開業医の仲間の先生と行くゴルフ。趣味を楽しむひとときでもありますが、仕事のうえでの貴重な情報交換の場にもなっています。

身近な医療施設にこそ、徹底した検査体制を

1990年、熊本市の中心地から車で20分ほどのところに、19床の有床診療所、池田内科医院が開業しました。その10年後、院長の池田俊先生は居宅介護支援事業所を開設して介護事業に着手したわけですが、現在では医療法人社団城山会として図に示すような医療・介護複合体を構築しています。まずは、この体制の中核を成す「医療」についてご紹介しておきましょう。
内科疾患に関して、専門知識や設備の問題から大きな病院や専門医に頼っていた診断を、地域のかかりつけ医として、患者さんの身近なところで、迅速に、かつ総合的に行いたい―。これが池田院長の開業以来の医療方針です。こう考えるのも、患者さんと一対一で向き合い、患者さん本位の医療を提供していくことを信条としており、より的確な診断を行うにはすべての診療情報が一人の医師に集約されるべきとの思いがあるからです。
「もちろん、診断後の治療は必要に応じて病院などとの連携を図りますが、かかりつけ医として、検査・診断までは自分のところできちっと対応してあげたい、そういう気持ちがあります。それに、病院に検査依頼するとなれば、患者さんにはまた手間と時間を取らせてしまう。特に高齢者にとっては大きな負担となりますからね」
「身近な医療施設にこそ、疾患を特定する徹底した検査体制を」と考える池田院長。それは、地域住民の健康を考える上で「身体と心の安心につながる」とも言います。そのため、同院ではX線撮影装置はもちろん、エコーやCT、MRIなどの豊富な検査機器を揃え、ほぼ内科疾患を網羅できる体制を整えており、週2日は連携する病院から画像診断医(放射線科医)も招いています。

地域に根差した身近な医療と安心の介護

検査は「患者さんにやさしく、分かりやすく」

こうした検査体制には、池田院長の「患者さん第一」という強い思いも働いています。たとえば、心臓が立体表示され、心機能を分かりやすく観察できる心臓専用エコーや、低線量で一度に複数画像の高画質撮影が可能なX線など、結果が分かりやすく、身体への負担も軽い最新鋭の機器を積極的に導入。肺CTでは3D画像解析プログラムも導入しており、「気管支navi」検査の実施も可能です。これは、CTを行うだけで簡単・短時間に気管支内腔の所見を得ることができるもので、患者さんにとっては苦しい気管支内視鏡検査を受けないですむメリットがあります。
さらにはIT医療の先駆けとして、電子画像が診療報酬で評価される以前から、各検査機器から得られた画像を電子化しサーバーで一括管理・保存する院内ネットワークシステムも構築しています。診察室には数台のディスプレイが用意され、一度に複数の検査画像を表示することで、患者さんへのより分かりやすい説明へとつなげています。
「何も最初からこうしようと考えていたわけではなく、患者さんのためにとコツコツやってきた結果です」と謙遜する池田院長ですが、画像の電子化はまさに制度が後追いした形といえます。「とにかく、電子画像ネットワークシステムを導入したことで、患者さんに検査結果をすぐに見てもらえますし、過去と現在の比較も容易にできるため、より納得して説明を受けてもらえるようになりました。最近は高齢者も液晶テレビなどを見慣れているせいか、患者さんにはフィルムよりも見やすいと好評なんですよ」とのことでした。

すべては患者さんのために!

患者さんもフィルムより見やすいモニターに納得

ニーズに応じて介護を拡大 施設は目の届く範囲に集中

このような診療体制を築くかたわら、2000年に介護保険制度が施工されたことを受け、池田院長は自ら介護支援専門員(ケアマネージャー)の資格を取得、居宅介護支援事業所を開設します。介護保険サービスを利用する高齢の患者さんに、かかりつけ医としてケアプランの作成までかかわりたいと考えたからです。
その翌年には、地域の高齢化の進行に伴い認知症の患者さんが増加し、医院のベッドだけでは対応できなくなったことから、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)を開設。以後は、やはり地域のニーズの高まりを受け、2006年にかけてデイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所生活介護)、小規模多機能型居宅介護の各事業所を次々と開設しました。介護施設ではありませんが、2009年12月には高齢者専用賃貸住宅(以下、高専賃)も併設しています。
城山会の介護施設は、医院のすぐ裏手に集中しています。唯一、離れている高専賃でも、医院からは歩いて5分ほどの距離。単に土地が空いていたということではなく、意識的に集中させたもので、「なるべく近く、自分の目の届くところに置く」というのが池田院長の大原則。実際、忙しい診療の合間を縫って、毎日できるだけ多くの施設を回り、利用者さんと直接話をして状況の把握に努めています。利用者さんの多くは患者さんであるため、「私が顔を見せると見せないのでは、安心感も違うんですね」と言います。
訪れた施設では職員にも積極的に声をかけ、コミュニケーションを密にして、意思疎通や情報交換を図っているとのこと。ここにも「一対一」を重んじる池田院長の姿勢が表れています。

福祉事業に携わっていた母親の姿が原体験に

「医療依存度の高い要介護者」をキーワードに

城山会が手がける介護事業の中で注目されるのは、小規模多機能型居宅介護(以下、小規模多機能)の存在です。これは、要介護者が住み慣れた地域での在宅生活を可能な限り継続できるよう支援するのがねらいで、要介護者の様態や希望に応じて、「通い」を中心に「訪問」や「泊まり」のサービスを組み合わせて提供します。厚生労働省が地域包括ケア体制に向けて重視している地域密着型サービスの一つです。
対象者は中重度の要介護者とされ、認知症のある要介護者のほか、経管栄養・カテーテルなど医療依存度の高い要介護者の受け皿として期待されています。その点では、当然、医療機関との連携が必要であることから、医療機関が手がける場合も親和性の高いサービスといえます。池田院長もこうした考えの下、2006年に小規模多機能を開設したわけですが、人員面では2009年度の介護報酬改定で加算として評価される以前から、持ち出しでも常勤・専従の看護職員を配置していたとのこと。施策として期待される役割を担おうとする強い意志がうかがわれます。
「医療依存度の高い要介護者」に対しては、グループホームでも十分な体制を整えています。当初、グループホームは軽度から中等度の認知症高齢者が対象とされていましたが、近年は利用者の重度化が進行し、ターミナルケアなどの課題も含めて対応が求められたため、2006年度介護報酬改定で「医療連携体制加算」が創設されました。文字通り、主治医との連絡・調整、看護師の確保など、医療ニーズが必要となった場合に適切な対応が取れる体制を評価するもので、城山会のグループホームでも算定していますが、診療所の併設型であるだけに、よりスムーズな連携の下に迅速な対応が可能です。
「医療機関が取り組む場合は、やはり医療ニーズの高い人を受け入れるべきだと思いますし、医療が保障されているという安心感が、社会福祉法人や民間企業が提供する介護サービスに対する強みではないでしょうか。ただ、その分、利用者さんやご家族の期待値も高くなりますから、常にそれに応える努力は求められます」と池田院長は言います。

入居者とスタッフの「なじみの関係」を大切に

診療所併設の強みで定員上限に達する登録者

適正規模を守り、利潤は追わず利用者負担に配慮

このほかにも、城山会の介護事業は池田院長の二つの明確な方針の下に運営されています。まず一つは、自分たちにとって適正と考える規模を守っていることです。グループホームはもともと定員上限が9人ですが、小規模多機能は「通い」が上限15人に対し13人、「泊まり」が同9人に対し6人、ショートステイは6人、デイサービスは10人を定員としています。「経営的にはある程度の規模は必要ですが、地域に根ざした施設として、やはり私は自分の目の届く範囲、利用者さんと互いに顔が見える範囲でやっていきたい。それが利用者さん一人ひとりにより行き届いたケアを提供することにもつながると思うのです。介護老人保健施設や大規模なデイサービスなどは念頭にありません」と池田院長。
もう一つは、介護でも「利用者さん第一」の姿勢で、経済的負担への配慮をみせていることです。グループホームと小規模多機能では、全額自己負担となる利用料を低く抑え、「月額10万円」という目安を設けています。グループホームの場合、月額で家賃2万円、食費3万円、水道光熱費1万円と、介護サービス以外の自己負担は6万円のみ。これに介護サービス料や必要に応じた医療費を含め、要介護度5の人でも10万円程度で収まるようにしています。小規模多機能も同様で、「泊まり」の費用は1泊1000円と、全国的にみてもかなりの低料金。池田院長は「そもそも介護報酬自体が大きな利益が出るような設定にはなっていないので、そこには期待しないほうがよい。赤字にならずに経営が回れば、それで十分」と考えているそうです。

利用者に心地よく、スタッフには使い勝手よく

「中核は医療、介護は付加価値」との考えを

城山会にとって、2006年は一つの節目の年だったということができます。この年、診療報酬改定では在宅療養支援診療所、介護報酬改定では小規模多機能が新設されましたが、城山会はいずれにも名乗りを上げました。在宅医療については、それ以前も積極的にかかわっていたので、むしろ制度の後押しも受ける形で、以後の医療・介護一体提供の強化に努めてきたわけです。まさに、施策の流れの先頭に立つ取り組みであることが分かります。
ところで、2012年度の診療報酬・介護報酬同時改定を目前に控え、今後は施策的に医療と介護、相互のより緊密な連携が求められることが予想されますが、診療所ではどのような対応が必要になるのでしょうか。最後に、この点についておうかがいしました。
「なじみの患者さんの高齢化が進み、医療だけでなく、介護も含めて在宅生活を包括的に支える必要性を感じている先生方も少なくないと思います。ですから、地域の中の役割分担と必要とされる機能を見極めた上で、地域医療の担い手として介護サービスへのかかわり方を考えていく必要があるでしょう。地域のインフラ次第で、介護事業者との連携なのか、直接参入なのかの判断も求められます。ただし、直接参入の場合は収益に必要以上にこだわらないこと。あくまでも中核は医療であり、介護サービスはケアの質や患者さんのQOLを高めるための付加価値と考えることが大事です」
城山会としては、「ショートステイを、よりニーズの高い小規模多機能に転換し、関連して高専賃も一棟増設したい」という池田院長。地域ニーズを的確にとらえた先進の取り組みは、すでに第二段階を迎えています。

高齢で住みかえが必要になっても、自宅と同じように

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